2003年12月22日

司法制度改革推進本部事務局 「弁護士報酬敗訴者負担」意見募集係 御中

 労働組合ネットワークユニオン東京

「合意による弁護士報酬敗訴者負担制度」に関する

労働組合としての意見

 私たちは、中小零細企業で働く労働者を中心に組織された、所謂「合同労組」の組織形態をとっている労働組合です。在籍組合員約120名の殆どが、それぞれの職場で唯1人の組合員として、雇用主企業との間で、安定した労使関係の実現、労働条件向上、就労環境改善を目指して交渉を持ち、或いは、争議の状態にあります。 そのような個人加盟合同労組として、日々現場の実状に接する立場から、若干の意見を述べさせて頂きたいと思います。 この間、司法アクセス検討会において多くの貴重な議論がなされ、私たちが懸念していた弁護士報酬の敗訴者負担制度導入は見送られる方向であると聞き、やや胸を撫で下ろしていたところでありました。ところが今に至って、「裁判当事者の合意による導入」案が急遽浮上し、しかも、労働契約書や就業規則の中に「事前の敗訴者負担合意事項」を挿入しようとする動きがあるとのことで、私たちは再び危惧を覚える次第です。 これらの案の内容は、過去になされた議論や検討をすべて振り出しに戻してしまうものであり、何故このような案が出てきたのか、まったく理解に苦しみます。 裁判当事者同士で敗訴者負担を合意するというのは、そもそも争い事があり対立している者同士に、「先に話し合い協議してから裁判をせよ」と促すことであり、どちらにとっても不毛な提案としか受け留められません。話し合う余地など無いからこそ訴訟になっているのですから、裁判の入口で敗訴者負担に同意するかどうかを巡って時間を浪費することになりかねないという状況も発生するでしょう。これは裁判の迅速化を図るという検討会の主旨に沿うものとは思われません。何よりも、敗訴したら弁護士費用を負担しなければならないという精神的圧力が、特に労働者が原告として雇用主を訴える場合、もとより経済力や情報力において歴然たる力の差があるという現実に加え、必死の思いで提訴しようとしている原告をさらに追いつめることになってしまいます。 また、就業規則等で予め合意させるという案も、現場の労働相談を受けている私たちにとっては非現実的で検討会の目的に適うとは思われません。 採用時に就業規則を見せて、「ウチの会社の就業規則はこのようになっているが、これに不服は無いか?」と確認を取る企業などまず稀ですし、前述のように、選りどり見どりで気に入った人間を雇える立場と、何としても職を得たいと切望する労働者の立場には天地の違いがあるのですから、よしんば採用時に就業規則を示されたとしても、そこに多少不具合な記載があるからと言って、異議を申立てることのできる労働者・被雇用者など皆無です。 また、労働問題の発生するところでは、在職する従業員に就業規則が開示されていない職場が圧倒的に多いという事実があります。それらの職場では、就業規則が社長室の金庫に仕舞い込まれていたり、閲覧に許可が必要であったり、監視の下でしか見ることができなかったりと、自由に見るという最低限の権利すら保障されていません。 書かれている内容も、いまだに有給休暇が年に6日とされているもの、懲罰による減給の割合が月収の2割3割を超える率になっているもの、中には「残業割増は支払わない」と、就業規則や労働契約書に堂々と謳ってあるものさえ存在します。外資系企業では「紛争時にはカリフォルニア州法によって裁定する」などと記してあったり、信じられないようなものばかりです。 大多数の労働者が、就業規則等については、言わば「白紙委任」のかたちで雇用主との関係にあるのが実状であり、それ故に、私たちのような労働組合に寄せられる相談は、より一層複雑で深刻なものとなっているのです。 このような状況下で、敗訴者負担について就業規則等で予め合意させるというのは、どだい不可能な話です。「見せた」「見ていない」を巡っての紛糾や、記載内容がそもそも違法・不法であった場合の判断など、まさに裁判の入口でのスッタモンダを増やすだけに他ならず、司法へのアクセス簡便化や裁判の迅速化に何ら資するところはありません。 何卒貴検討会におかれては、このような労働現場の末端・最前線の状況を汲み取られ、「敗訴者負担」も「就業規則等での事前合意」も、現時点での実施は不可能であり、貴検討会の目指すところにも合致しない案であることを、是非ご理解頂きたく願うものです。

以上

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